多文化間精神医学会・会員の皆様へ

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 このたび、多文化臨床・研究委員会(Committee on Clinical Practice and Research in Cultural Psychiatry)が新たに立ち上がりました。この委員会は、多文化間精神医学領域における臨床実践・研究を活性化させ、さらに発展させていくことを目的としています。本学会の強みは、精神医学のみならず、心理学・人類学・社会学・社会福祉学等、多岐にわたる専門領域をもった臨床家や研究者が集まっていることです。しかしその学際性・多文化性ゆえに、臨床や研究の方向性を一点に定めることは難しく、お互いの視点の違いを自由に議論できる場が必要と思われました。したがって本委員会では、当初二つの目標を立て、長期的視点から、多文化間精神医学に携わる人々の研究や、臨床のサポートの場を構築できればと考えています。

 第一に、まさに“多文化”の集まりである本学会の特徴を活かした事例検討会を学会で開催します。多文化臨床実践で治療者が困難を感じたケースについて、医学・心理学・人類学・社会福祉学等の専門家がそれぞれの、異なる視点から事例分析を行い、最後に総合討論を行います。このような事例分析は、北米等の多文化間精神医学クリニックで用いられている手法ですが、一つの臨床例をまったく異なる専門領域から考えることで、患者に関する医学的理解を深めるのみならず、臨床現場を訪れる人々が置かれた社会的・文化的・歴史的背景を考え、さらには臨床家自身の前提を相対化する場として機能しています。若手と、研究・臨床経験の豊富な会員の両者に参加してもらうことで、異なる学問領域の交流を促進し、同時に世代をつなぐ教育・知識伝承の場として活用できればと思います。各専門領域の理論を、具体的な臨床実践を通じて議論することで、あらためて多文化の視点から臨床をすることの面白さや、その意味を、再確認できるのではないかと考えています。

 第二に、多文化間精神医学のテキストとケースブックを、将来的に作成するための準備段階として、海外の多文化間精神医学の動向と日本の現状を話し合う場を設けたいと思います。多文化主義が浸透しつつある欧米・アジア諸国においては、この数十年で、多文化間精神医学のテキストブックが作られ、臨床知の標準化・客観化への試みが始まっています。その過程で、政治的・歴史的状況の違いによる、各国の精神医学が抱える問題の差異も明らかになってきています。近い将来、日本でもこういったテキストを出版できることを目指し、その準備段階として、委員会で各国のテキストブックを入手し、それぞれの特徴を分析しつつ、日本の多文化間精神医学が置かれた状況や課題について議論していければと考えます。また、テキストと併用の、日本独自のケースブックを発表できるよう、第一の目標でもあるケース検討会から、特に重要と思われる症例を選び、さらに議論を重ね、可能ならば『こころと文化』、『Transcultural Psychiatry』等のジャーナルに投稿し、テキスト作りの基礎を固めていきたいと思います。

こういった課題に取り組んでいく中で、徐々にではありますが、多文化間精神医学専門家へのサポート機能を充実させていければと考えております。例えば論文・テキスト作成を通じて、「多文化間精神保健専門アドバイザー」はどういった知識を持っているのか、資格取得によってどういったスキルを得られるのか等、学会独自の活動を、社会により広く知らせることができればと願っております。委員会は、患者を直接手助けできる臨床の場ではありませんが、困っている人を助ける臨床家や研究者の側を支援し、連携を図る、学際的なサポートの場として発展できるよう、尽力したいと思います。若手中心のスタートですので、最初は試行錯誤となりますが、多文化間精神医学会・会員の皆さまのご支援と、ご指導をいただければ大変幸いに存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

多文化臨床・研究委員会

委員長 北中 淳子

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